大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 平成7年(行コ)3号 判決

控訴人(附帯被控訴人)

右代表者法務大臣

田沢智治

右訴訟代理人弁護士

小澤義彦

右指定代理人

小野木等

足立英幸

斎藤明

粟井一博

本間進

被控訴人(附帯控訴人)

八木昭一

右訴訟代理人弁護士

酒見康史

浅野則明

小槻浩史

主文

一  本件控訴に基づき原判決を次のとおり変更する。

1  控訴人(附帯被控訴人)は被控訴人(附帯控訴人)に対し、金二〇万円及びこれに対する平成三年六月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人(附帯控訴人)のその余の請求を棄却する。

二  本件附帯控訴を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審とも、これを一五分し、その一を控訴人(附帯被控訴人)の負担とし、その余を被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。

事実及び理由

第一本件控訴及び附帯控訴の趣旨

一  本件控訴の趣旨

1  原判決中、控訴人(附帯被控訴人、以下単に「控訴人」という。)の敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人(附帯控訴人、以下単に「被控訴人」という。)の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  本件附帯控訴の趣旨

1  原判決を次のとおり変更する。

控訴人は被控訴人に対し、金三三〇万円及びこれに対する平成三年六月一一日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。

第二事案の概要

次のとおり付加するほか、原判決の事実及び理由「第二 事案の概要」に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決一三頁六行目冒頭の「通じて」の次に「年次休暇承認権者である第一審被告石井に対して」を加える。

二  同一五頁三、四行目の「指導」の次に「するとともに、医局で孤立することなく和を保つようにと」を加える。

三  同一八頁一行目末尾に続けて「、外来や入院の患者に対し心ない不謹慎な言動を行い、あるいは病棟へ殆ど行かず終日図書室に一人閉じ籠もる日が多かったこと」を加える。

第三争点に対する判断

当裁判所は、被控訴人の請求中、年次休暇承認請求権の侵害を事由として損害賠償金二〇万円とこれに対する遅延損害金の支払いを求める部分は理由があるが、その余の請求は理由がないと判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正及び削除するほか、原判決の事実及び理由「第三 争点に対する判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決一九頁八行目の「おける」の次に「医師が」を、同二〇頁六行目の「受理すれば、」の次に「その後不承認の通知がない限り、」を加え、同九行目の「必要はないし、通知もない。」を「必要はなかったし、逐一承認された旨の通知もなかった。」と、同末行目の「事実」を「事例」と改め、同二二頁六行目の「被告前川が、」の次に「暗黙裡に」を、同九行目の「五月三〇日」の次に「午前八時三〇分ころ」を加え、同二三頁四行目、末行目の「申請用紙」をいずれも「申請書」と改め、同一〇行目の「〈証拠略〉」の次に「〈証拠略〉」を加え、同二四頁一、二行目全部を「前川に提出した(提出自体は争いがない)が、第一審被告前川は、翌六日午前、その申請書を返すべく、被控訴人の机に置いた。被控訴人は、同日正午ころ、医局に」と、同二五頁三行目の「同日」を「同月一二日」と、同四行目末尾の「全く原告の」から同七行目の「あきらめ、」までを「明確な返答はなかった。被控訴人は、」と、同一〇行目の「被告石井は」から同二六頁三行目の「断られた。」までを「第一審被告石井は、「まず代理医を見つけてくれば、休暇を認める。」と答えた。このころ、被控訴人は、代理医を飯田医師や他の医師にも依頼したが全て断られたうえ、無断欠勤とされて何らかの処分の対象にされるのではないかと危惧し、翌一三日午後の年次休暇をあきらめ出勤した。」と改め、同四行目の「二一、」、同九行目の「一四、」の次にいずれも「二七、」を加え、同二七頁一〇行目の「七月四日送達」を「七月三日発送、翌四日到達」と改め、同一〇、一一行目の「同年五月三〇日、同年六月六日、同月二七日の」を削除し、同二八頁六行目の「勤務しなかった。」の次に「同月六日と八日に、庶務係でこれまでの申請書はどうなっているかを尋ねたところ、保留となっていることが判明した。」を、同行目の「〈証拠略〉」の次に「〈証拠略〉」を、同七行目の「四、」の次に「二一、」を、同末行目の「被告立石は、」の次に「医局のなかで孤立しないよう、また和を保つよう助言したうえ、」を、同二九頁四行目の「被告立石は、」の次に「前同様の助言をし、」を加え、同三〇頁三行目の「取得は」を「同月一八日午後の年次休暇は前同様に」と、同三一頁四行目の「健康診断」から同八行目の「よう述べた。」までを「心身の状況についての健康診断の受診を勧告された。」と、同三二頁六、七行目の「原告が医師として不適格だから」を「被控訴人に」と改め、同七、八行目の「、また、病院を退職するように説得して欲しい」を削除し、同八行目の「〈証拠略〉」を「〈証拠略〉」と改める。

二  同三二頁一〇行目から同三三頁六行目までを次のとおり改める。

15 それより先、被控訴人には、白衣の背中に自分の名前を大書きして院内を歩いたこと、当直の際、医師当直室を施錠したため、緊急時の連絡ができなかったことがあり、その施錠の理由につき人に襲われるかもしれないと答えたことがあったこと、病棟回診時間が極めて短く、一日中一人で図書館で過ごしていることが多いこと等の行動がみられたうえ、上司や同僚の指導助言に耳を傾けず、自己の主義主張を通すことが多く、患者の家族の前で他の医師のした治療につき批判し、看護婦からの病状の悪化を告げる呼び出しにも、直ちに応じなかったことも少なくなく、さらに、患者の臨床に際し、看護婦らが心肺蘇生術を施行していたところ、付添の家族に対して、「治るものならするが、治る見込みのない者に対しては何もしない。それがわしの主義や。して欲しかったらするし、せんでもええやろ。本人がしんどいだけやし」と繰り返したうえ、蘇生術を施行している看護婦の手を「もうそんなことせんでもいい。」といいながら払いのける等、医療の施術について自己の主義主張に固執し他者の立場などを全く配慮しない(ママ)ようとしない独善的なところがあり、他の医師や看護婦等との協調性を欠き、あるいは医師としての適格性を疑わせるような言動がしばしばみられ、またその診察時の服装や態度等につき患者やその家族から病院側に苦言が呈され、医師としての信頼を欠くことも少なからず存した。

第一審被告立石は、被控訴人のこれら言動から、被控訴人の心身、特に心の健康につき異常があるのではないかと疑問を抱き、前記のとおり、被控訴人に対して健康診断の受診を勧告した。(〈証拠・人証略〉)

三  同三三頁七行目の「二条により、」を「等により、厚生大臣の委任を受けた」に改め、同八行目の「権限」の次に「及び義務」を加え、同行目の「〈証拠略〉」を「〈証拠略〉」と改める。

四  同三三頁一〇行目の「比良病院における」の次に「医師に対する」を加え、同三四頁五、六行目全部を「とが認められる。したがって、右第一審被告両名は、本来の承認権者である第一審被告石井の補助者として事前審査の役割を通じ、年次休暇の承認権を実質的に行使しているものということができる。」と改め、同九行目の「明らかであるから、」の次に「前判示のとおり、組織法上においては第一審被告石井が最終の決裁権者であるが、実際の運用としては、」を加え、同三五頁五行目の「同月一一日」を「同年七月一一日」と改め、同三六頁三行目の「定めている」の次に「(当時の法令による)。また、前記認定事実と証拠によれば、第一審被告石井は、年次休暇について給与法一四条の三第四項にいう「各庁の長(厚生大臣)の委任を受けた者」に該当することは明らかである(〈証拠略〉)」を、同四行目の「したがって、」の次に「比良病院長としては、医師その他の職員から」を加える。

五  同三七頁五行目から同三八頁一行目までを次のとおり改める。

確かに、被控訴人のような病院勤務の医師の場合、控訴人主張のように年次休暇期間中の代理医を確保することが望ましいから、年次休暇の申請の際、最終的には承認権者側において代理医の確保に当たることを前提にして、先ず申請者において代理医の確保のため努力すべきことを指導したというのであれば、あえて異とするに足りない。しかし、前記認定のとおり、第一審被告石井らは、被控訴人が他の医師との協調性に乏しくその責任において容易に代理医の確保が難しいことをよく認識していたにもかかわらず、従前、第一審被告前川が被控訴人の代理医となっていたことも取り止めて、被控訴人の責任において代理医を確保しなければ年次休暇が承認されないことを明言しているのである。しかも、被控訴人の責任における代理医の確保が法律上年次休暇申請の要件であると解することはできないし、もちろん、当時そのような慣行があったわけではない。さらに、第一審被告石井らにおいて代理医の確保に努めたが代理医が見つからなかったわけではない(これを認めるに足りる証拠はない。)うえ、仮に、代理医の確保ができず、他の医師のみで患者の急変等に対処できないような状況が予想されるのであれば、申請を受理したうえで、速やかに、「公務の運営に支障がある」ことを理由に被控訴人の年次休暇申請を不承認とすべきものである。

六  同三八頁二行目の「承認された」の次に「(承認が遅れたのは、申継ぎもせずに年次休暇をとることは「公務の運営に支障がある場合」に該当する疑いがあり、承認、不承認を容易に判断できなかったためであり、放置したわけではないから、これをもって直ちに違法とはいえない。もちろん、嫌がらせではない。)」を加え、同四行目から同七行目までを次のとおり改める。

しかし、被控訴人は、平成二年六月一三日、同月二〇日の年次休暇については後の不利益処分を危惧しこれを取ることを断念し勤務し、また、同年七月一八日の年次休暇については代理医を得てこれを取ったものの、その処理手続が気にかかり翌一九日問合わせていることは、前記認定のとおりである。そして、年次休暇申請がなされた場合、各庁の長又はその委任を受けた者(第一審被告石井)は速やかに承認するか否かを決定し、職員にその旨を通知すべく規定されていることは前判示のとおりであり、この通知は、年次休暇申請者に対し希望の日に職務から解放し、安んじて休息等を取らせることをその目的の一つとしているから、承認不承認自体、可及的早い時期に決定することが要請され、事後承認等は右規定の予定していないものと解するのが相当である。しかるに、本件については、平成二年五月三〇日から同年七月一八日までの間、前後七回にもわたり被控訴人の年次休暇申請につき、その承認不承認の決定については医事専門家たる第一審被告石井らにおいて容易に判断し得ると推断できるのにかかわらず、いずれとも決しないまま、長期に亙ってこれらを放置し、年次休暇予定日経過後、しかも前記調停の申立後である同年七月二六日に至り、初めてこれらを一括承認したというのであるから、これら承認を相当長期に亙り容易に判断できるにもかかわらず年次休暇予定日を越えて怠った第一審被告石井らの右行為は違法な行為と評価することができる。

七  同三八頁末行目から同四一頁一〇行目までを次のとおり改める。

三 争点2について

前記一15認定のような、被控訴人の医師として不相当な言動に照らせば、第一審被告立石が、被控訴人の医師としての心身特に心の健康状態に関し疑問を抱いたのはもっともなこととして是認することができる。また、第一審被告立石の行為は、職員の健康管理者たる立場からする健康診断の受診の勧告の域を出ないものであって、受診の強要とか、いやがらせであったとは到底いえない(強要等と認めるに足りる証拠はない。)。

したがって、厚生省健康安全管理規程等により厚生大臣から委任を受けた比良病院長として、職員の健康の保持及び安全確保に関する事務を掌理する第一審被告石井が、健康状態に疑問のある被控訴人に対して健康診断の受診を勧告することは、その職務上当然の措置であって、その行為が不法行為を構成するとは到底解することができない。

八  同四一頁末行目冒頭の「三」を「四」と改め、同行目の次に行を改め次のとおり加える。

1  原告(ママ)は、平成二年六月一三日、同月二〇日の年次休暇申請に関し、後の不利益処分を危惧し年次休暇を取ることを断念し勤務している。その余の年次休暇に関しても、後に事後承認されているとはいえ、前判示のとおり、原告(ママ)において後の不利益処分等の危惧を懐きながら、休暇を取らざるをえなかったものであり、しかも、回数はかなりの期間にかけて前後七回にも及んでいるのである。これら年次休暇承認請求権の侵害により被控訴人が精神的苦痛を被ったことは明らかであり、本件に現れた諸般の事情を総合すると、その慰謝料額としては一五万円が相当である。

九  同四二頁一行目冒頭の「1」を「2」と、同三行目の「四日」を「三日」と、同六行目の「申立をし」を「申立をした。そして」と改め、同八行目の「ことが認められる」の次に「(〈証拠略〉)」を加え、同八行目の「この支出は」から同四三頁の七行目の末尾までを「また、本件損害賠償訴訟の遂行に関し、被控訴人は弁護士たる訴訟代理人を委任していることは本訴訟記録上明らかである。これら内容証明郵便の発送に始まる一連の弁護士費用としては、本件に現れた諸般の事情を総合考慮すれば、五万円が相当である。」と、同八行目冒頭の「四」を「五」と改める。

第四結論

以上の次第で、本件控訴に基づき、当裁判所の判断と異なる原判決を本判決主文一項のとおり変更し、本件附帯控訴は理由がないから棄却し、訴訟費用につき同三項のとおりの負担として、この判決をする。

(裁判長裁判官 砂山一郎 裁判官 西田元彦 裁判官 東畑良雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例